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ソフトウェア開発と年齢

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一般的に言えば、エンジニアは、通常、働いた年月ともに、自然と知識と知恵が積みあがっていく職業です。

しかし、IT業界で働くITエンジニアに関しては、そうとは一概に言えません。
個人差が極端に大きく、何年やっても全くスキルの上がらない人もいれば、年齢を重ねても即戦力として能力を発揮できる人もいます。

しかし、はっきりと言えるのは、年齢が決してプラスに働くことはなく、常に、マイナス要因としてみなされることです。これが意味するのは、ITエンジニアであり続けるには、年齢をスキルアップで埋める作業を延々と続けなければならないということです。

特に、昨今では終身雇用の崩壊によって、老いぼれても、先端テクノロジーに翻弄されざるを得ないという現実が面前にあります。

■ ソフトウェア開発と年齢に関するデータ

経済産業省「IT 人材需給に関する調査」(2019 年3 月 みずほ情報総研株式会社)からのデータを紹介します。

IT人材の供給と需要の予測は、2023年の予測を見ると、市場成長(=需要の伸び)を鑑みて、約16万人~33. 7万人(需要予測が低位~中位の場合)が不足すると言われています。

ITエンジニアの年齢分布は、2020年のデータを見ると、40~44歳が最も多く、40代がボリュームゾーンになっているます。

目立つのは、20代もそうですが、30代が2010年、2015年、2020年と急激に減少している点です。
その一方で、50代以降が急激に増加しています。
これは、リーマンショックなどによる不景気による採用抑制が如実に表れていると思われます。

IT業界は、受託開発が中心の労働集約型ビジネスですので、不況になるとIT投資がストップし、
もろに影響を受けます。その結果、採用抑制、リストラなどで、大きく人数が減っていると思われます。

年齢が高い方が、リストラを受けやすいと思われるかもしれませんが、
その時にまだ案件が続いていれば、知識と経験がある年長者が重宝され、経験の浅い人が切られることもあります。
その結果、まるで少子高齢化に見られるようなIT人材の急激な高齢化が進んでいるものと思われます。


IT業界は、これまで顧客の要望に応えて、ロジックを組み立て、プログラムを作り、動作させることで収益を上げてきました。それによって、金融システム、業務システム、Webサービス、組込ソフトウェア、AndroidやiPooneで動作するスマホアプリなど、膨大なソフトウェアが作られ、稼働しています。

一方、このような「従来型」のテクノロジーとは大きく毛色の異なるテクノロジーであるAI、ビックデータ、IoT、ブロックチェーンなどが今度の主流となっていきます。
このような「先端技術」に対応していくことが、IT業界、そして、そこで働くITエンジニアに求められています。

以下では、「従来型」のテクノロジーを扱う人材は遺産(レガシー)として残り続けますが、やがて「先端技術」を扱う人材に浸食され、置き換わっていくものと予測されています。

特に、AIに関しては、需要の伸びが高く、すぐに、急激な人材不足が発生するものと予測されています。

IT人材の「リスキル」(Reスキル)とは、再学習による「先端技術」の習得のことを言います。

「リスキル」によって、「従来型」のテクノロジーを捨て、「先端技術」である AI、ビックデータ、IoT、ブロックチェーンなどに長けた人材に生まれ変わることが求められています。

しかし、その変身は、現時点では、自己学習と自己責任によってなされることが前提です。

「リスキル」の対象は、何十年も「従来型」のテクノロジーで飯を食ってきた40代以降のロートルエンジニアです。
自分の身に置き換えてみても、実際に「変身」をとげることは、困難を極めることでしょう。

その理由は、高齢のITエンジニアのほとんどは、現状に甘んじながら、息をひそめて言われたことだけをこなし、ただただ労働力を提供することだけに長年いそしんできた人達ばかりだからです。

自らの時間を使って学習し、能力を高めることを継続してきた人は一握りの人達しかいません。
つまり、「リスキル」しようにも、モチベーションとなる学習欲も、そのベースとなる学習力もないのです。

■ いつまでもITエンジニアでいることは、難しい

ITエンジニアは、組織がなければ生きていけません。組織がなくなれば、ITエンジニアを引退せざるを得ないケースも起こりえます。
会社にいる限り、組織変更は頻繁に起こりますし、コスト的に組織で抱えられる人数には限りがあります。
その結果、職種転換、キャリアチェンジを迫られることも珍しいことではありません。

そして、別の組織で、ITエンジニアとして雇われるには、年齢が優先されます。
そのため、年齢を重ねるほど、ITエンジニアでいられなくなるリスクは上がっていきます。

さらに、何の根拠もない「35歳限界説」に従って、途中から現場から離れマネジメントに逃避した人達は、スペシャリストからサラリーマン化=ジェネラリスト化し、すぐに劣後していきます。
彼らは、労働者に戻ることもなく、このようなIT人材不足の問題からも蚊帳の外にいます。

■ 「質より量」。でも、ジジイはいらない

すべての情報が、紙からデジタルへと変換され、ビックデータ化する過程において、デジタルデータを扱うためのツールとしてのソフトウェアが至るところで必要となりました。

その結果、ソフトウェアを生み出す燃料(リソース)としてのITエンジニアの需要が増加します。
残念ながら、プログラミングは、いまだに生身の人間でしかできません。ソフトウェアの需要が激増すれば、リソースであるITエンジニアが枯渇するのは当たり前の話です。

供給を増やすには、人を増やせば言い話です。
事実、中小のITベンダーは、こぞって「未経験」のITエンジニアを雇い入れようと、躍起になっています。

IIT業界では、常に、質よりも量が優先されます。現場では、ひっきりなしに「人が足りない」という会話がされています。

「質より量」

このことは、人月という通貨で買える、一山いくらで売られているミカンのような扱いを受けているITエンジニアの境遇を言い表しています。

「質より量」という通念が浸透しているIT業界において、いくらスキルが高くても高齢のITエンジニアに需要はありません。
原則、ITは、馬力とスピードのある「若者」が中心となる仕事であり、誰も好き好んで高齢のITエンジニアの「介護」などやりたいとは思いません。

仕方なく、高齢のITエンジニアたりは、年収や待遇をグレードダウンを受け入れ、妥協しながら働くことになります。その受け皿になるのは、先細りの「従来型IT市場」です。慣れ親しんだ、これまでの延長にあるテクノロジーを駆使し、面白みもないキツイ作業に従事し続けることになります。

結局、急増する高齢のITエンジニアたちには、収斂(しゅうれん)していく労働市場に身を投じるしかないのです。自然と、競争も激しくなり、レッドオーシャン化していくことでしょう。年収も待遇も下がることはあれ、上がる見込みはありません。

■ 「量から質」への転換期かもしれない

このような「質より量」が生んだ、いわゆるIT業界の3K(キツイ、帰れない、給料安い)を改善するには、下請分業構造を破壊し、一次請け、二次請け、三次請けといった「ITカースト」をフラット化することです。

ITベンダーの単価は、少なくともこの30年は上がっていません。逆に、単価の安いフリーランスの台頭など、受注先の多様化が進むことで下落傾向にあると思われます。

プロジェクトを組む時に、たくさんのスキルの低いITエンジニアを集めるよりも、「質の高い」できるITエンジニアだけを積極的に集めるような意識を醸成することで、「質より量」という通念が生む悪いスパイラルを止めることができるのではないでしょうか。

ITプロジェクトの成功確率、30%にも満たないという話を耳にしたことがあります。もし、このような意識改革が起これば、成功確率も上がるでしょうし、その結果、年収や待遇も大きく変わるでしょう。

固定された人月単価もなくなり、保有する能力や期待される成果に見合う報酬を「時価」で得られる受注活動も可能となるでしょう。そして、年齢に関係なく、ずっと活躍できる人達が増えてくることでしょう。

「ITエンジニアは、キャリアアップもダウンもなく、ずっと学び続けられるものだけが生き残る」であるべきではないでしょうか。

■ まとめ

ITエンジニアが経験を重ねることによって蓄積すべきなのは、単なる経歴のリストではなく、「常識」です。

ここでいう「常識」とは、自分自身がその根拠を確かめられたハードスキルとソフトスキルのことではないかと考えます。たとえば、うまく言えませんが、以下のようなものです。

・ハードスキル

 小手先の技術を大事にし、その内容を理解するまで詳細に調べ、自らきちんと使ってみることです。
 いったん手が難れば、もたやできなくなるでしょう。それでも構わないのです。

 所詮、テクノロジーなどファッションみたいなもので、入れ代わり立ち代わり、すぐに変わっていきます。
 小手先の技術が消えてなくっても、手を動かしながら学んだことは「常識」として蓄積されていきます。
 
・ソフトスキル

 技術的なことを分かりやすく図表や文章でまとる、顧客など利害関係者に説明や提案するなど、
 仕事を通して、場数を踏むことで得られる経験的知識のことです。


このような常識は、仕事のスピードと質を各段に押し上げてくれます。

ただし、過信は禁物です。目の前の仕事で、常識を使って賄えるのは、よくて50%程度です。
残りの50%以上は常に仕事を通して学び続け、習得する必要があるという意識を持ち、
”いま”の仕事に取組み続けるしか、老化=劣化を防ぐ方法はないのです。

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